歴下亭の「オモシロイからナルホドまで」

古書店・歴下亭(Amazonマーケットプレイス)を営む「本の虫」のつぶやき。本・雑誌・音楽などなどのこと。

勝目梓『牙は折れず』

牙は折れず (徳間文庫)/勝目梓

¥660
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タイトルと帯のキャッチコピーに惹かれて買った一冊。

病院に行く途中の本屋で。

いやというほど待たされるのが予測できたので、家から一冊持っていった。

それが内田 樹の『ためらいの倫理学』。

電車の中で、もっと気軽に読める短編をと思い立ち、コレを選んだ。

ビンゴ!


書影は帯をはずして掲載する、と相場が決まってるから上の書影では帯になんて書いてあるかわからない。

<愛する者のために---男たちの戦いがはじまった.

年寄りを舐めるなよ!>というのが惹句。


7つの短編で構成されており、なかでもよかったのが「骨」という作品。

事件の犯人(老人)が取調室で犯行について語っているのだが、警察官とのやりとりはどこにもなく、すべて犯人の一人称。それも方言で家族や生い立ち、犯行の全貌等々を訥々と語っている。一人称で、つまり独白のかたちをとっていながら、ちょっとした状況の変化や心境などが「訛り」の強い言葉のはしはしに浮かび上がってきて、巧い。


「年寄り」というのが何歳くらいを指すのか知らないが、登場する「年寄り」はすべてアラ古希。作品群に登場する「年寄り」たちは、静かな「老後」を送っていけるハズだった。が、孫、子等愛するものを不条理に奪われ、捨て身の戦いに身を投じる。勝目梓お得意の「復讐譚」老人スペシャルといったところか。


短編はむずかしい---とよくいわれるが、この一冊を読んだ限りでは勝目梓は、そんなことはまったく気にしていないようだ。ちなみに著者も主人公の「年寄り」たちとほぼ同世代。年をとらなければ書けない部分が確実にあるんだろうな、という気がした。文庫オリジナル作品。


オモシロイ度:9

ナルホ度:7