歴下亭の「オモシロイからナルホドまで」

古書店・歴下亭(Amazonマーケットプレイス)を営む「本の虫」のつぶやき。本・雑誌・音楽などなどのこと。

笹本恒子さんと『ふだん着の肖像』

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めったに観ない「徹子の部屋」にチャンネルを合わせた。笹本恒子さんの出演は確か2度目だったと思うが、最初のは見た記憶がない。98歳!思っていたよりもずっと、はるかに若々しくお元気な様子で、意気軒昂。フランスへの取材旅行を予定していることなども聞き、とてもうれしかった。

 もう四半世紀ほど前のことだ。当時編集プロダクションに勤務していた僕のもとに、友人を介して紹介があった。「日本で最初の女性カメラマンがいる。撮りためた写真や文章があるのだが、なんとか本にできないだろうか」というものだった。

結果的に、何よりも僕自身の力不足から、僕の「仕事」として成立することはなかったが、しばらくして新潮社から上梓されるとの連絡をもらった。出版記念会の案内状やら受付やらでお手伝いをさせていただいたが、驚いたのは本のできばえ。

「ふだん着の肖像」というタイトルも秀逸で、本造りも「ナルホドこういう作り方もあったのか」というくらい上手いとおもった。掲載されている写真も実にユニークなショットで、被写体はすべてその時代を代表するような斯界の有名人ばかりなのだが、ひと味違うのだ。なにが違うかというと、タイトルが物語っているようにみんな「ふだん着」なのだ。

有名人だから公式の場等々でのショットはマスメディアで数え切れないくらい露出していたと思う。が、笹本さんの写真は知己がやってきてくつろいで歓談していたり、仕事から解放されて自宅で趣味に興じていたりと、服装だけでなく文字通りふだん着でのリラックスしている著名人なのだからオモシロイ。

「おや、女の方とは珍しい」私の向けたカメラの前で、徳富蘇峰翁は、にこやかに微笑みながら、こう言われた。(帯の文章から引用)とご自身で書かれているように、小柄な女性が重いカメラをもってオズオズと撮影にきたことで、おそらくは肩の力が抜け、素の自分を見せたのではないかと想像する。

遅咲きで、ご苦労はされたかもしれないが、著作や個展も多く、「徹子の部屋」に2度出演するくらいだから、もう成功者の部類に入ると言えるだろう。ますますお会いできる機会は少なくなってしまったが、母と同じくらいの笹本さんができるだけ長くご活躍される様子を、遠方から見守っていたいと思う。