歴下亭の「オモシロイからナルホドまで」

古書店・歴下亭(Amazonマーケットプレイス)を営む「本の虫」のつぶやき。本・雑誌・音楽などなどのこと。

アメブロ最後の5~6本 その5

せどり男爵数奇譚 (ちくま文庫)

アメーバ古びた本を繰っていると、白髪が1本はさまっていた。セロテープの端でホコリと一緒にそれを取り除きながら、フと「どこかでこんなシーン、読んだことがあるような…」と、チラッと思った。そのときはすぐに思い出すこともなく半日が経過。何の脈絡もなく「あっあれだ」が突然やってきたのは就寝間際。すぐに本を探し出し、ほどなく目当ての箇所を見つけた。

アメーバ余談になるが(っていうか全部余談のような…)、ここ数年「せどり」なる言葉がネット上で大いに幅を利かせている。当然紙媒体でもそれに乗っかるところが多く、すっかり普通名詞のような扱いになっている。

梶山季之の著書に『せどり男爵数奇譚』というのがあって、これが結構オモシロい。手っ取り早く入手できるのは「ちくま文庫」のもので新刊書の書店に並んでいる。初出は昭和49年(1974年)。当時「せどり」はその道では使われていたかもしれないが、一般人にとっては隠語のようなものだったろう。

アメーバ<>印は引用。/は改行。

<しかし、正直に云って、この美術全集があたしを本の虜と云うか、本の虫にしてしまったのは事実です。/…それと云うのは、その全集の頁のあいだに、細い長い髪の毛がはさまっていたり、/六巻目の中ごろの頁に、口紅をつけた指先で頁を繰った痕跡が、歴然と残っているのを/発見したからでしてね。/あたしは、この美術全集の所有者が、なんとなく美しい人妻であったに違いない……と/思い込んだ。/夫の帰りを待ちながら、化粧して、物憂く美術書の頁を繰っている人妻……。/(中略)あたしは、そんな空想に嬉しくなる……と云うより興奮しましてねえ。(中略)と思って、その薄い口紅の指痕に、接吻しました。/まあ、これが私と古本とを、強く結びつけたきっかけでしょうね。>

アメーバまあ、それほどはマニアックでないにしろ、その本のもともとの所有者、しかも親交があって今は亡い一人の人間。その顔や姿、生活に思いを馳せたという点では同じだという気がする。元所有者の痕跡はそれだけにとどまらない。メモだったり映画の半券だったりして、興味は尽きない。先日は履歴書用の写真まで見つかった。が、一方やっている作業はそれらの想念とはまったく逆で、ホコリやヨゴレも含めて痕跡を徹底的に根絶しようとするものだから、オモシロイというかなんというか…。感謝と合掌。

8割進行の後、整理は遅々として進んでいないが、和本のボロボロ本に関しては、興味深いものもいくつかあり、機会を見て紹介しようかと思っている。